映画『赤い風船』アルベール・ラモリス監督作品

 1956年のフランス映画。「大空の映画監督」アルベール・ラモリスの劇映画第3作で36分の短編。セリフはほんの少ししかないけれど、第29回アカデミー賞脚本賞を受賞のほか、第9回カンヌ国際映画祭でもパルム・ドールを受賞した。

 パリに住むパスカル少年が、ある朝、学校に行く途中で街灯に引っかかった赤い風船を見つけるところから始まる物語である。このパスカル少年を演じるのは監督の息子パスカル・ラモリス。

 50年代のパリの風景が興味深い。なつかしい後ろ姿の車ルノーが走り、騎馬警官の一隊が蹄の音を響かせて通る。すべてがパリの甃の上である。なにげなく描写される、背負子に大きなガラスをくくりつけ売り歩く男の呼び声や、陸橋の下を通りぬける汽車の煙と蒸気、等々パリの日常が落ち着いた色調で描かれている。そんな画面の中で風船の赤さだけが鮮やかに引き立って、少年との心の通い合いの物語がつづられていく。筋立てに奇をてらったものは何もなく、画面が語るものに引き込まれるばかりである。

 この映画を私が観たのは小学二年生のとき、母に連れられて観た。『沈黙の世界』と一緒だったような気がするが、『赤い風船』の方が深く記憶に残り、忘れられない一作だ。半世紀以上を経て、今またこうしてユーチューブで観られるのはありがたい。