メンデルスゾーン:春の歌

 秋田にも春は来るんだい、と胸を張りたくなるような今日の陽気だった。最高気温が17度とくれば立派なものである。タイヤもようやく冬用から交換したがもう大丈夫だろう。いくら雪国とはいえ、この度の冬は早々と到来し長々と居すわるツワモノだった。春の訪れの喜びは格別である。

 

 「春」を題に持つ音楽はたくさんあるけれど、メンデルスゾーンが作曲したこの「春の歌」ほどシンプルでなおかつ陽光を浴びる嬉しさを感じさせる曲はないと思う。秋田では民間のラジオ放送局が「お誕生日おめでとう」という長寿番組のテーマ曲に使い、知らぬ者なしである。あ、誕生日の曲だと呟けば秋田県民の証。

 

 しかしながら、この「春の歌」なる標題はメンデルスゾーンが自ら付けたものではなく、単にピアノ独奏曲集である『無言歌集』にまとめられた49曲のうちの30番で「作品62の第6」というのが本来である。でも、この曲を「春の歌」と名付けたどこかの誰かの感覚は万人になるほどとうなづかせるものであった。もはやこの標題以外には考えられない、心に若々しいときめを起こさせる曲である。特に、メロディと低音の間をつなぐ、足元に子犬がじゃれるようなアルペジオがチャーミングで、ピアノの音の魅力が存分に伝わってくる。

 

 有名曲だけに無数の演奏があるけれど、ワルターギーゼキングの演奏が素晴らしいと思う。アルペジオの処理が味わい深く、後半の奏法の変化がおもしろい。1956年9月、亡くなるひと月ほど前の録音である。ロンドンのアビー・ロードスタジオで収録された。あのビートルズが使ったEMIの録音スタジオだというのもなんとなく嬉しい。