有元利夫 『花咲く頃』

 秋田駅から西に歩いておよそ5分、蓮の浮かぶ堀を過ぎて小さな橋を渡ると、緩やかな坂道が現れる。上るとそこが千秋公園常陸の国から転封となった佐竹義宣が神明山に築いた久保田城の址である。その二の丸広場脇にあるのが佐竹史料館というこじんまりとした建物なのだが、平成元年までは「秋田市美術館」であった。昭和33年から、現在の「秋田市千秋美術館」に移転するまでの、公園の中の小さな美術館だった。

 

 1987年(昭62)、全国を巡回する有元利夫展がその秋田市美術館でも開かれた。その頃は秋田市から50キロほど南に住んでいたのだが、フレスコ画を思わせる作品を生で見たかった以上に、2年前に39歳の若さで亡くなったことが同年代の自分にとってなにか切実なものがあり見に出かけたのだった。

 展示室は二つで展示作品の数もそれに見合ったものだった。小さな美術館は疲れなくていい。ゆっくり眺め、じっくり見つめ、行きつ戻りつ、盗賊のように吟味し、有元利夫の不思議な世界を楽しんだ。本人の好きなもの、立派だと思うものが真ん中に大きく、これですよと描かれている。いとも晴朗である。花が天から降り注ぎ、足元にも散りばめられる。描くことは善き業なりと言いたいようでもある。何かを物語るようでもあるが、ちっとも説明的ではない。厨子に納まった仏像を眺めているような気分になってきたのだった。ルネサンス絵画風な題材との不思議なオーヴァーラップであった。

 その時のポスターに使われていたのが、たしかこれだったと思う。『花咲く頃』1982年。