Peel P50とは何者か

 「自動車はちっちゃくて面白いのがいいのだよ」と、そういうことを考えるのはイギリス人。アレック・イシゴニス設計の名車BMCミニもそうやって産まれた。BMWの世話になってる今のもいいが昔のがそれ。1959年に生まれたオリジナルの方だ。車をステイタスや稼ぎ具合のシンボルと見るのとは別次元の、「作ってみたかった、こんなのほしかった」という創造力の発揮である。とにかく機械が大好き、この世になかったものを作るのが何より嬉しいという、技術への愛が素晴らしい。レース用芝刈り機からジャガーベントレーロールスロイスにいたるまで、このグレート・ブリテン島の連中の車づくりのセンスはちょっと真似のできない高度な発達ぶりで魔法と区別がつかない。その極致ともいうべきが英国はマン島のピール・エンジニアリング社が作った「Peel P50」。オドロキの車である。1962年から64年までに50台製造された。1台ずつの手造りで当時の値段が200ポンド。現存するのは27台。なんとオークションでは12万ドルの値がついたという。

 ではお姿を拝見。

2階建てバスとP50 赤がよく似合ってます

images (7) 勇気リンリン追い越し

 データを見ると、全長137cm、車体幅99cm、重量54kg、エンジンは49ccの2ストローク、バックギアなしの3速、燃費が30km/l、最高速度60km/hとなっている。見てのとおり3輪だから屋根付きスクーターと言えなくもないが走りっぷりはよさそうだ。その寸法たるやミニどころではなくマイクロである。しかし、ビジネスマン一人がブリーフケースを持って乗り込みシティを営業して回れること、それがコンセプトだそうで歴とした実用車である。The Smallest Car In The World ということでギネス・ブックに認定され以来50年タイトルを保持している。当面、人類のサイズは縮小しそうにないからチャンピオンの座は揺るがないであろう。ところで、これにどうやって乗るかがちょっとしたワザになる。それが下の写真。

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 さて、この、携帯みたいに身をたたんで乗り込んでいる大男はBBCのぶっとび自動車番組「Top Gear」のレポーターであるジェレミー・クラークソン。辛口どころかあらゆるメーカーに対する悪魔のようなこきおろしで有名な騒動男。P50に自ら試乗し珍しく大絶賛です。ではその様子を。どこを走るのやら。まあご覧あれ。バックギアが無い理由も納得できる。有名ニュースキャスターも登場し・・・・・

 実に人を楽しい気分にしてくれる車である。真面目なんだかふざけてるんだか判然としない「ハーフ・シリアス」の味がいい。なお、2012年にピール・エンジニアリング社はよみがえり、このP50を復活生産している。スタイルはそのままだが今日化してエンジン車と電気自動車の2本立て。相変わらずの1台ずつの手造り供給は貫いている。そのメリットを生かし各国の法律に沿ったカスタム対応をしている。ということで我が日本でも走行中。エンジンがちょっと違うかも。