恐れ入りましてございます―その3

 歳を取ったせいか、若き日の天才の示す、瑞々しい新緑のようなエネルギーに触れると嬉しくてしょうがない。大したものだなあ、凄い奴がいるものだなあ、と。

 前回エントリーのショパン17歳の曲は、めったに演奏されないらしいからこれまで聴く機会がなかった。無知なせいだと言われるかもしれないが、それはそうである。なにしろ知らないことだらけだ。そう思えば世の中は宝に満ちているのだからこれから出会えばいい。残り時間が気にはなるが。

 

 

 ショパンのおよそ一回り上になるが、シューベルトがいる。1797年の生まれだからほとんど19世紀の人と言ってもいいだろう。ベートーヴェンを尊敬するあまり、その後に何ができるだろう、と悩んだとも伝えられるがどうだったのか。実際にはモーツアルトハイドン、ウエーバー、ロッシーニに心動かされたようだから、根底にあるものは歌心なのだろう。メロディが次から次へと浮かんできてしょうがないし、それを素晴らしい早書きで楽譜にしていくということであったらしい。少年の頃から周囲の友達が「なんとか面倒見なければ」と作曲に専念できるように世話し続けたというからありがたい。ゴッホの弟のような友達がたくさんいたということだろう。せっせと作曲に励んで31歳の短い生涯に1000曲以上の作品を残した。歌曲が主とも言われてしまうが、ぜひ交響曲にも注目したい。第1番は16歳の作品である。ニ長調で4楽章構成約30分の演奏時間の曲を書いた。ウィーン学友協会に保存されている総譜の草稿には苦心の跡など見られないというから、元々この人はイメージと記譜にギャップがなくスラスラと書けるタイプなのだろう。16歳にしてすでに堂々たる交響曲作家である。ハイドンモーツアルトの影響が・・・・と、例によってここでも首を傾げる向きもあるが、決して亜流ではない。転調やメロディの処理は、シューベルトの湧き出るような歌が自然に「生きる」ものとなっている。木管の使い方が実にいい。一方、トランペットの音域は高い。でもD管でだから大丈夫、頑張って吹きなさいと少年シューべルトが言っている。大人は子供に苦労させられるのである。