おそれいりましてございます―その4
若き天才の放つ光芒は文句なしに素晴らしい。伸びゆくものの持つ勢いが鮮やかに煌めいて心を躍らせる。
しかし待て待て、老いもまた良しである。年を経てもなお失われることのない、熟成を重ねた趣きの深さがあろうというもの。「この人を見よ」である。ビル・タピア、ウクレレで初めてジャズを演奏したとされる、ホノルル生まれのミュージシャンだ。2009年に来日し、17日間に10回にわたる国内コンサート・ツアーとイヴェントをこなした。そのとき101歳。世界最高齢のプロ・ミュージシャンとしての驚くべき来日公演である。
8歳でプロになり、ルイ・アームストロング、ビング・クロスビー、プレスリーなどとも共演してきた、アメリカの音楽界の歴史そのもののような人物であるが、アンクル・ビルと呼ばれ愛された。2011年12月2日に、元日生まれなのであとひと月で104歳というところでの大往生。眠っている間のことであったという。天然自然な死ともいうべきか。ホームページまで持って、直前まで達者で活動していた。この人の、様々な修練と経験の果てに到達した、突き抜けた明るさは本当に周りを幸福にさせる。確かに、技法的には「下手」になっているに違いない。衰えは必ずあるのだから。でも、存在そのものが音楽と同化し一体となっている様子を見れば誰しも「いいなあ」と感じるだろう。生きた音楽を目の当たりにし、音楽って人をシアワセにしてくれるのだなあ、と感じるだろう。動画を二つぜひ見ていただきたい。まず、2009年のジャパン・ライヴから、「Young at Hert」。なかなかの曲者じいさんである。