新緑のよろこび

 ようやく初夏らしい陽気が戻ってきた。日差しを浴びて、これですよこれこれと言いつつも、時に「暑いな」と贅沢を言う。身も心もこわばりが解けていく季節になったのが嬉しい。

 

 千秋公園もこの時期は桜からツツジへと装いを替えていくのだが、それは方角で言えば東南側の「表舞台」の話で、いわばお客様用の千秋公園。御馳走の並んだ御膳のような華やかな姿である。だが地元民としては、自分だけの風景を探してむしろ裏手に回って徘徊するのが楽しい。散歩というよりも、フリーな勝手歩きである。公園の西斜面下にある高校のテニスコート脇、やや急な階段を上ると別世界が現れる。千秋公園は意外なほど山中を行く趣きを味わわせてくれるのだ。たまに犬に連れられた人間や、黙々と励むランナーが現れるくらいで至って静かなものである。鳴き交わす小鳥の声が響く中、程よく起伏のある道を辿れば今まさに新緑の候である。

 

 

この道の脇に本丸へと導くこんな坂道もある。

 

 

元の道を行くと、下って上がっての後、ぽっかりと開けたところに着く。「あやめ園」である。明治神宮から譲り受けたあやめを植えたという。6月になれば様子の一変する、杜若、花菖蒲、あやめの名所で、その前に建つ一軒の店がその名も「あやめだんご」。これが店主自ら「田舎料理店」と称する、秋田の酒飲み好みの店である。和室にグランドピアノがあり、時折ライブハウスとなって山菜をつまみに音楽と酒をいただくという、融通無碍の店。

 

 

写真右奥にその建造物があるので、ぜひ自分の目でお確かめいただきたい。隠れ家というより秘密基地の風情がある。

 

更に段を上り東屋で息を整え、左手に明徳小学校を見つつ歩みを進めると本丸方面へ向かう坂道に出会う。正面に弥高神社の社殿を見下ろす角である。ここに健気に咲く山吹の群落。

 

 

ここから本丸であるが、偏屈者としてはすーっと通過する。裏手の二の丸に下り、夏場には格好の我が読書スポットになる茶室に向かう。

 

 

自分の家のような顔をしてしばし佇み、見上げればこんな感じで、呼吸が深くなる思い。

 

 

フレッシュ・グリーンを堪能したところでまた道に出ると、八重の桜である。ならぬことはならぬのです、とひたむきに咲く様が逆光の中でも美しい。色合いも品の良さを醸し出している。

 

 

花の色に心を残しながら、そろそろ行脚も終盤。表の坂に出て人の流れと逆に下りて行く。池のほとりまで来て振り返ると、こうである。表舞台の顔、なかなか立派なものだ。

 

 

この池に棲む亀四匹が久々の甲羅干し。頭を寄せて談合の様子である。

 

 

ざっと、千秋公園地元民の徘徊コースの一端でありました。