バッハを聴きましょう その2

 伴奏なしのメロディ楽器一本での演奏のとき、「無伴奏」と言われる。「無伴奏チェロ組曲」「無伴奏ヴァイオリンソナタ」などなど。その題名だけで、何か相当の覚悟がいるような雰囲気が伝わってくる。ピアノの時はそう言わない。鍵盤楽器は指の数だけ一度に音が出せることになっているから自前で伴奏も含めた音楽の総合ができるからだろう。それはそれで大仕事だとは思うが。でも、ピアノ一台の音楽があんまり「ひとりぼっち」という感じがしないのは確かだ。

 メロディ楽器がただ一人ステージの真ん中に立ち、まさに孤立無援で演奏するというのは大変だろうと思う。それが管楽器ともなれば一層困難の度を増すのではないか。チェロやヴァイオリン、ギターであれば和音を弾くこともできるから重心というものを取りやすいかもしれないが、管楽器は一音に全てを託すしかない。管楽器の無伴奏の曲はとりわけ高度な挑戦のターゲットとなる訳である。孤独であるが誇り高い、そんなところが演奏者を惹きつけるのではないか。なにしろ奏者の全てが表れる。構成力、一つ一つの音の意味の把握、息のコントロール、意図はそっとしまっておく、しかし、ときには表情を見せる、大変な技の集大成だ。どんな楽器でもお家の事情と難しさはある。無伴奏の曲はそんな諸々を乗り越えた音楽を出現させることを求めるのだなあ、と感心することおびただしいのである。

 ということで、バッハの「フルート・ソロのためのパルティータ」に行きついた。イ短調のこの出だしのメロディを聴くと、なんと伸びやかなと思う。分散和音を吹いているだけとも言えるのに、瞬時にして音楽の柱が立ちあがる。バッハの真骨頂だ。ランパル、パユ、いろんな名手が演奏しているが、やっぱりオーレル・ニコレのを聴くと心落ち着く。無骨といえば無骨、しかし何か音楽の中に聴き手を引きこむ趣きがある。棟梁の風格。いいなあ。ぜひ聴いてみてください。

 

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