「威風堂々」

 今や卒業式の音楽として日本中の学校で使われているのがエルガーの行進曲「威風堂々 第1番」。大抵はトリオのメロディに乗って卒業生が式場に入場してくる。小学生に威風堂々というのも「ちょっと、少し・・・」いう感じがしないでもないが、音楽で表情もきりっとするからいいのだ。

 「威風堂々」は未完成の6番まであって、エルガーの生前に5番までが出版されたが、日本では特にこの第1番を言うことが多い。トリオの名旋律のおかげだろうか。原題は "Pomp and Circumstance" 。「オセロ」の第3幕第3場のセリフから取った題名で、坪内逍遥は「飾りも立派さも」と訳したというから、威風堂々とはかなり気合いの入った意訳。しかし誰が聴いてもこの曲にぴったりの訳と言える。

 1901年のロンドン初演では二度のアンコールがあったというから最初から英国人の心をぐいと掴んでしまったのだろう。後に国王となるエドワード七世の要望に応え、歌詞を付け戴冠式に用いて以来「希望と栄光の国」として歌われるようになった。

 

 エルガー本人が指揮している貴重なフィルムが残っていた。1931年11月12日、ロンドンは「アビー・ロード・スタジオ」のオープニング記念の演奏である。あのビートルズのアビー・ロードである。いろんな意味で貴重なことだ。

 冒頭、オーケストラに向かって74歳のエルガーが話している。

 「 Good morning gentlemen. Glad to see you all. Very light  programme this morning. Please play this tune as though you've never heard it before.」

 だそうである。渋く、さりげなく、いかにも英国的。

 

 

 そして、これはその80年後。「BBCプロムス」なるイギリス名物のコンサートの最終夜、毎年夏に開催される、8週間に及ぶクラシック音楽コンサートシリーズの最後の最後である。ロイヤル・アルバート・ホールを埋め尽くす聴衆が声を合わせて「希望と栄光の国」を歌う場面 英国らしさの真髄を皆が心から味わっている。それにしてもこの国の人々は合唱が好きだなあと感心するし、うらやましくもなる。