「The Man I Love」

 ガーシュイン兄弟の作った歌である。アイラとジョージ、兄が詞を書き弟が作曲した。いつの日か愛する人が現われる・・・・その時を思う心模様をしっとりと描く。1924年の作だが脚光を浴びるまで4年かかった。しかも、まずロンドンで流行、やがてパリでヒット、それからようやく本家本元アメリカで1928年になって広く注目されたというから愛の旅路は長く厳しい。しかもこの歌、最初のタイトルは「The Girl I Love」だったというから、途中であべこべになったりしてややこしい。

 ジョージ・ガーシュインと言えばクラシックの好きな人なら、冒頭のクラリネットグリッサンドが有名な「ラプソディ・イン・ブルー」をはじめ、「コンチェルト・イン・エフ」やピアノ曲の「プレリュード」、「ポーギーとベス」、「パリのアメリカ人」などがおなじみだろう。しかし、クラシック界には、根強くドイツ音楽こそナンバー・ワン、フランスその次、アメリカなんぞ・・・・という階級思想があるみたいで、ガーシュインを器用な素人作曲家と見る向きもいる。

 どうも軽い扱いで悲しいことである。年来のガーシュイン好きとしては、異議申し立てと共に精一杯応援したいのであるが、そのためには一つ腰を据えてじっくりと調べねば。人となり、音楽的特徴などなどのガーシュイン全体像を知りたいものである。思えば気が遠くなりそうなことだが、それだけの敬意を払うべき作曲家であることは間違いない。

 1928年、ラヴェルが訪米したとき、弟子入りを頼んだら「どうして二流のラヴェルになりたいんだ。きみはすでに一流のガーシュインなのに」と言われ、同じ年、パリに行ってはナディア・ブーランジェに「私にはあなたに教えられることは何一つありません。このまま自分の道をお進みなさい」と師事を断られたというエピソードが残っている。また、シェーンベルクガーシュインの死後、ある追悼番組で「彼が成し遂げたことはアメリカ音楽に対してだけではなく、全世界の音楽に対する大きな貢献だ」と語っている。

 

 さてさて「The Man I Love」のこれは絶品です。ダイナ・ショアが歌い、アンドレ・プレヴィンがピアノを弾く、タイトルがそのまま『Dinah Sings Previn Plays』という、歌もよしピアノもよしの傑作アルバムからの一曲。