「Someone To Watch Over Me」

 これもガーシュイン兄弟の曲。邦題は「やさしき伴侶を」となっていたり、「誰かが私を見つめてる」と、ちょっとマチガイっぽい訳になっていたりするが、前者がニュアンスとしては近いだろう。調べると、 watch over は世話をするとか見守るという意味のようだから。だいいち「見つめてる」だとストーカーのようで不気味ではないか。「私を見守ってくれる誰かさん」とでも思いましょう。 

 先の「The Man I Love」同様に、愛する人に出会うことを夢見る内容の詞。語りかけるヴァースの終わりは、「この迷子の仔羊を導いてくれる人がどこにいるのか教えて」と、比喩もアメリカン・ラブソングの典型だ。歌入りのハリウッド映画のような雰囲気をたちまち醸し出す。それもそのはず、この曲は1926年のミュージカル『Oh,Kay!』の中のナンバー。ニューヨークのインペリアル劇場での上演回数は156回を記録したという。

 

 この頃、ジョージはブロードウエイをはじめとするポピュラーミュージック界とコンサートミュージック界の両方で人気絶頂。アメリカを代表する作曲家として多忙を極めていた。ラプソディ・イン・ブルーの発表からわずか2年後である。猛烈な勢いでオーケストレーションや最新の理論を習得し、まぎれもないジョージ・ガーシュイン独自の音楽世界を着々と築いていた。一方、兄のアイラは自分の詞をそれまでのように弟妹の名を使った筆名でなく、本名で発表するようになっていた。ようやくである。この内気さがなんとなく彼の書く詞にも現われている。

 ジョージとアイラはまるっきり正反対の性格の兄弟であったという。体の中にモーターがあるように「多動」で休むことを知らないジョージと、静寂を好み、できれば動きたくないが仕方なく動くときはできるだけゆっくりというアイラ。まるでウサギとカメである。全てにおいてシャイなこの兄は、自分の本名がイズラエルなのだと、パスポートを取って初めて知って驚いたというほど。素晴らしい浮世離れぶりである。20代はじめの頃、父親の経営する「トルコ式浴場」(日本のと違うよ)の手伝いをしながらニューヨーク・シティ・カレッジに通っていたのだが、数学と化学が大の苦手であった。うんざりしていたところに追い打ちをかけるように、今度は微積分の授業が始まるという。これは勘弁と退学してしまった。こういうときは素早い。ただしその後はぶらぶらの省エネライフ。それが突然、ジョージに曲をつけてもらおうと猛然と作詞を始めた。言葉に生きることに焦点があったのである。弟は音楽に生きる。この見事なコンビで数々の傑作を残してくれたのは有難いことだ。数学ができなかったことが人類に貢献した例である。

 実は、ジョージもその少し前、15歳で商業高校をとっとと退学している。母親ローズの嘆きはたいへんなものだったろう。ロシア系移民のユダヤ人にとって、息子を医者か弁護士にするというのが夢というのだから。「男の子って・・・・」とため息をつく姿が目に浮かぶというものだ。

 

 で、この曲を聴くなら誰がいいか。エラ・フィッツジェラルドネルソン・リドルの名アレンジに乗せて、ヴァースから丁寧に歌っているこの盤が最高だと思う。エラおばさんが目を瞑って聴くと本当に可愛らしいのである。1959年の録音。

 

 

There's a saying old, says that love is blind
Still we're often told, "seek and ye shall find"
So I'm going to seek a certain lad I've had in mind

Looking everywhere, haven't found him yet
He's the big affair I cannot forget
Only man I ever think of with regret

I'd like to add his initial to my monogram
Tell me, where is the shepherd for this lost lamb?

There's a somebody I'm longin' to see
I hope that he, turns out to be
Someone who'll watch over me

I'm a little lamb who's lost in the wood
I know I could, always be good
To one who'll watch over me

Although he may not be the man some
Girls think of as handsome
To my heart he carries the key

Won't you tell him please to put on some speed
Follow my lead, oh, how I need
Someone to watch over me

Won't you tell him please to put on some speed
Follow my lead, oh, how I need
Someone to watch over me

Someone to watch over me