ウイントンとセルゲイ

 パガニーニの「無窮動」をトランペットで吹いてしまう二人だ。元はヴァイオリンの曲。それを吹くとなると音域の広さからしても一仕事なのに、ただ事でない速さである。細かい音符を開始から一貫して吹き通さなければならない。管楽器奏者にとってはエライ曲である。

 ウイントン・マルサリスとセルゲイ・ナカリアコフ。米国露西亜の対象的な音楽風土で育った。二人で同じ曲といっても別に比べて優劣をつけましょうというのではない。歳は違えどいずれも名人同士、どちらもサーっと風が吹き抜けるような爽快さにあふれている。そして、同じ曲でもこんなにスタイルが違うのかという驚きで「Wow!」となる。音楽の面白さを感じる一瞬である。これは一聴の価値ありとお薦めであります。

 

 

 どうでしょうか。二人のスタイル、実に対照的だ。まずキーが違う。ウイントンは F で、セルゲイは Bb ではないかと思う( 違ってたらちょっとまずいけどね)。それに、前者のスラーに対して後者はタンギングと正反対といってよい。でも、どちらもブレスの凄いこと。もしかして循環呼吸でしょうか。ヘッドフォンで注意深く聴けばその切り替わる瞬間が分かるかも。テクニックといいブレスコントロールといい、どちらもまあ大したもんです。

 一体にして、彼の国々の管楽器プレイヤーの息のスピードというのは、どうも我々日本人と土台が違う感じがしてならない。エアの量というかスピードのことなのだが、それが音のアタックに影響してはいないだろうか。「パーン」と出る音と、どことなく訛ったような「nぱーっ」と聴こえる音の立ち上がりの鈍さと。オーケストラで聴いてもそんな感じがしてしまうことがある。わしらも思い切りよく行こうぜと励ましたい。特に金管楽器はそうしないと品よくならないものね。トランペットは王の楽器であったのだし。