梅雨明けのファンファーレ
しかし、暑いのはともかくとして、梅雨空から一転してカラリとなった空気はやはり気持ちがいい。梅雨明け宣言とともにここはひとつファンファーレで雲を吹き飛ばしたくもなるではないか。と、登場するのがエンパイア・ブラスという金管アンサンブルである。濁りのない純正な和音の響きが実に痛快。名手の清澄な音色、そして全員の倍音がピシッと決まった時の統一感は比類がない。
金管アンサンブルの魅力が存分に味わえる曲はと言えば、ヴェネツィアはサン・マルコ大聖堂楽長ジョバンニ・ガブリエリの作品が随一。時代は遥か昔、後期ルネサンスである。中世の、人間の声が横糸となって精緻に織りなすポリフォニーから、和音の柱が拍子に乗って建ち上がるようなホモフォニーへと音楽が替っていく時代だ。バロック時代へと足を踏み入れていく頃である。ヴェネツィアでルネサンスの最後の栄光と言うに相応しい輝かしい曲の数々を生み出したのがガブリエリ。残響の豊かな大聖堂の特徴を存分に生かした音響効果が独創的であった。ガブリエリは、ここで聴けるように時には語るように柔らかく、時にはするどく主張するといった音色の変化をあやつることで現代につながる新たな音楽の姿を作りだした。
およそ400年前の音楽がまったく古くない。人間の聴覚に忠実な、純正に協和する「和音」は自ずから力強く確信に満ちている。その背景となるのは、ルネサンスの時代思潮によって、教会という「正統」の場で形成されていく新しい音楽観だ。当時、音楽現場と言えばまず教会であるが、並行して世俗の「オペラ」が隆々と力を付けて行く。そんな時代である。サン・マルコ大聖堂に鳴り響くガブリエリの音楽もいかにも神の栄光を讃えているかのようだが、ここにあるのは、従来の敬虔さとはやや離れた、音楽を人間の座に引き寄せ人間こそが意思をもって操るのだという姿勢である。「神を讃えるのは我ら人間ならばこそ」であるという意気を感じさせるのだ。まさにルネサンスの精華がここにあると言える。
このあたりから音楽家というのは意外に一筋縄でいかない人種になっていくから面白い。
もうひとつ、金管と言えば英国式の「ブラスバンド」。日本で言うブラスバンドの本来の意味はこちらだった。
夏は祭りの季節。ブラスバンドで活きのいい「Sing,Sing,Sing」で元気になろう。ちょっと変わった趣向も楽しめる。