バディネリ三題

 「バディネリ」、我が国ではBadinerie の英語読みで呼ばれている。御存知バッハの管弦楽組曲第2番の終曲である。その名の通り、けっこうオーケストラで盛大に演奏されてきたが、本来はこじんまりとした編成で、ヴァイオリンの第1と第2、それにヴィオラ通奏低音がささやかに伴奏するフラウト・トラヴェルソのコンチェルトのようなもの。可愛らしく小さなコンチェルトですね。で、バディネリはその最後の7曲目にあたる。言葉としては「冗談」の意味だと説明されるが、バッハとしては「余興」「アンコール」の意味合いであったようだ。この曲は結構な難曲なのだが、何食わぬ顔で眉ひとつ動かさずさらりといかねばならぬ。颯と吹き抜ける一陣の風のようにフルートの名人芸を見せるのである。吹く方はきっとかなりしんどい、でも聴く方にはアンコール・ピースに相応しく、実に爽やかな後味の良さ抜群だ。バッハに敬意を表して時代を遡り、バロックの様式としてはこんな風であったのかと、トラヴェルソの雅な音をどうぞ。モダン・フルートと違って木製でキーもなし、殆どリコーダーを横にしたような楽器で柔らかい音が心地よい。古い楽器の音を聴くと、楽器と人の声の距離の近さを思ってしまう。

 そして、これはまさにアンコールとしてのバディネリ。ゴールウエイの旦那の超高速、黄金のフルートを持つ男の美技である。オーケストラの音響にも負けない、パワフルなモダン・フルートの極致。ゴールウエイの演奏は音楽をねじ伏せるような意識は毛ほどもない。湧き出る音楽と自分の間に隙間がないとの印象である。まるでフルートの生まれ変わりのような御仁。言わば英吉利の笛吹く地蔵様で、いつもありがとうという感じある。

 もうひとつ、これこそバディネリ本来の冗談精神の体現。フルート版二人羽織。座布団あげましょう。