音楽の泉 ノルウェー篇

 北半球はあちらこちらで強い寒波に見舞われエライことになっている。カナダのお正月は火星より寒いという強烈なインパクトで明けた。世界中が流石はカナダと感心したようだ。が、アメリカも他人事ではなかった。車は転がる脱獄犯は刑務所に逃げ込む火事場は凍るとオオワラワのそれでもどこか楽しそうなTVニュース。やがて北極の寒気の張り出しはぐっと南下し日本列島に年始廻りである。かくして我が秋田も堂々たる冬景色となった。仕事初めの月曜日からちょうどよくしっかりと雪が降った。2014年、者ども心してかかれよとの天の声であろうか。なにしろ寒くて身のひきしまる思いで皆さん出勤となった。

 という堅実なる世間をはばかって、もう数日は素浪人の身であるワタクシは行いを慎み、雪空を眺めつつネットラジオを聴いていた。局はスイス・クラシック。こちらの位置情報は極東―日本―東北―秋田―そしてわが雪の茅舎。スイスから9千キロも離れて彼の地のFM放送が聴けるということに感心するほかない。しかもどこかと違って無料、実に実に有難いことだ。

 ともすればハラワタの沸騰する日々で荒らくなる鼻息の静めようが難しいのだが、今日はラジオから流れる初めて聴く曲ですっかり穏やかになってしまった。・・・美しい・・。これは何?と急いで調べるとノルウェーのヨハン・スヴェンセンの曲と判明した。グリーグより3歳年上で親友だと。しかし知名度ではグリーグがはるかに上である。確かに知らんかったものね。知らない人知らないいい曲がいっぱいあるんだろうなと驚くのだが、一方では希望も湧いてくるというものだ。特にマイナー好きな自分としては新たな山脈を見出した思いだ。それで、Youtubeで音源を探すとノルウェー室内管弦楽団というまことに魅力的なオーケストラに行き着いた。抒情とぴしりと締まったリズムが両立するすっきりした味わいである。強い酒をキリリと冷やしたような、呑めばカッと腹の底から熱を帯びてくるような、そんな印象でワタクシたちまち好きになってしまった。演奏をご覧あれ。「ノルウェーの春」というタイトルのCDをリリースした記念のオスロ大学でのライブのようである。曲はヨハン・スヴェンセンの「Romance for Violin and Orchestra, Op. 26」。見てのとおり、これ本番?リハーサル?と戸惑うような皆さんのいでたちである。しかし、演奏の弛みの無さがすごい。音楽が一人一人の身の内から湧き出、それが一体となって響いている快感が伝わってくる。音楽って心からのものなのだなあと思う。音楽の泉を目の当たりにした。オーケストラにしばしば見られる「私仕事しています」的な人格と感覚をを失ったような空気との対極である。

 あんまりいいからもう一つ。今度はフィンランドの大シベリウスで「Valse triste, Op. 44」。これを聴くと自分がやっぱり北国の人間だなあとなぜか思ってしまう。

 時間のある人はこれもどうぞ。みんなちゃんと服を着ていちだんと真剣に見える。珍しいチェロの弾き振りをスティーブン・イッサーリスが。ハイドン交響曲第6番「朝」。ハイドンっていいなあとつくづく思う。ベートーヴェンの拡大路線、我一人荒野を行く路線に疲れたら是非ハイドンモーツアルトをいただきましょう。因みにこの演奏は2013.1.15だからほぼ去年の今ごろ。このオーケストラ、ワタクシとしてはとても注目です。小さくてもあっぱれではないか。