明るい表通りで

 「On The Sunny Side Of The Street」というスタンダード・ナンバー、日本では「明るい表通りで」となっている。原題を見ると若干ニュアンスの違いを感じないでもないがそこらへんは気にしないで通用してきたようだ。この表通りという言い方で、我々はなにか喜ばしいものを十分に感じることができる。

 所は米国、時は1930年、前年に始まる大恐慌の最中である。押しつぶされそうな時代の空気の中で、とてつもない不景気や暗い気分を吹き飛ばすような明るい歌がヒットした。

 「コートをつかんで、帽子をかぶって、心配事はドアのところに置いて、

  明るい通りに出てゆこう。きみの陽気な足音は素敵な歌そのもの、

  さあ明るい通りに踏み出して生きてゆこう・・・」

といった歌詞。オレの人生それどころじゃねえよ、という気分も当然あるが、まあ試しに明るい陽の光を浴びれば心持ちも変わろうというもの。そんなところが米国民の心情にマッチして大当たり。以後、ずっと生き続けて今日まで愛されている。トミー・ドーシー楽団のお気楽なダンスナンバー風や、エラ・フィッツジェラルドの『エラ&ベイシー』でのさすがの名演と、ジャズの大物の面々が楽しんでプレイしている。

 4月も3分の2が過ぎてそろそろ5月の連休が視野に入って来たこの頃、新年度の始まりと共に押し寄せた怒涛のごときストレスの大軍への応戦で、どちら様も疲れが溜まっていることとお見受けするのである。そんなときに、もう少しの辛抱ですよという気分にちょっとチェンジしてくれる音楽がほしい。そしたら、ふっと思い出したのがこの「On The Sunny Side Of The Street」だった。肩の力をちょっと抜いてのりきろうではないか。

 聴くとするなら上に書いたジャズのグレートな方々も良いけれど、今は、なんとなくこの曲の根底にあるアメリカン・ポップスらしさ、それこそ、ものごとの sunny side を見ていこうじゃないかという、明るさがいっぱいのドリス・デイがいい。炊きたての新米のおにぎりで「美味い!!」とシアワセになるような感じだ。さすがは「ケ・セラ・セラ」の人です。

 歌詞も載せておきましょう。

   On the sunny side of the street

    Grab your coat and get your hat

    Leave your worries on the doorstep

    Life can be so sweet

    On the sunny side of the street

    Can't you hear the pitter-pat

    And that happy tune is your step

    Life can be complete

    On the sunny side of the street

    I used to walk in the shade with my blues on parade

    But I'm not afraid...this rover's crossed over

    If I never had a cent

    I'd be rich as Rockefeller

    Gold dust at my feet

    On the sunny side of the street

 

 ジャズの香りとしてはコーラスでいかが。マンハッタン・トランスファーで文句なしの名人芸大会。さらりと歌っているのに声にしっかりと芯がある。そこから生まれる安定したハーモニー。これがほんものなんだなあ。

 だいぶ気分がよくなってきたところで、仕上げはオスカー・ピーターソン御大。絶妙のテンポ感に降参です。