ガーシュインの「ララバイ」

 Lullabyといえば子守唄。そしてガーシュインの・・・といえば、あー「サマータイムだな」と連想する。ところがこんな曲がジョージの死後30年以上も過ぎた1968年に見つかって出版された。兄のアイラがそっと本棚にとっておいた楽譜だった。「Lullaby」とシンプルなタイトルで弦楽四重奏のために書いた曲。1919年の作とあるから、二十一歳のときだ。本格的なミュージカルの作曲に初めて取り組んだ年でもある。ブロード・ウェイで大当たりをとり、作曲家としての将来を確実なものとした。若き成功者としてエネルギーが全開となった頃である。

 ガーシュインの作曲はほとんど独学であったかのように言われることもあるが、実際はそうでもない。ピアノの手ほどきをしてくれた近所の若い女性のあとに二人の優れた音楽家にピアノと音楽理論を習っている。14歳から22歳までとすれば、十分な期間個人指導をみっちり受けたことになる。音楽に打ち込むジョージの吸収力は驚異的であったという。じきに教えることがなくなり、師匠が次の師匠にリレーしたのだ。ハンビッツァーとキレニーの二人の人物である。

 一方でジョージ本人は、ゴスペル、ラグタイム、ジャズは勿論、クラシックやユダヤ音楽などあらゆるジャンルにその興味を広げていき、それらを作曲に生かしてゆく。才能とは学ぶ力のことでもあろう。和声学・対位法・管弦楽法など作曲に必要なスキルが、溢れるアイデアを実現させる過程の中で必然的なものとして学び取られてゆくのである。書く術を得てこそ才能は実体化する。それは学ぶ力と一体となっている。バッハはもとよりモーツァルトベートーヴェン・・・歴史に名を残す人物は皆それを証明している。ジョージ・ガーシュインの39年という短い生涯に創造された音楽の世界はそうした人々にしっかりとつながっている。

 さて、その「Lullaby」、弦楽合奏の版も後に作られているが、若きガーシュインが書いた弦楽四重奏で聴くとそのサウンド観がよく分かる。けたはずれに「忙しい」人で片時もじっとしていない、エネルギーの塊でモーターが付いているとも言われたガーシュインの心の中の風景がこんなにも静かなものだとは。

 そして、アレンジに取りかかる前のピアノ版。これが曲としてはオリジナルということになるだろう。ピアノで聴くのもとってもいい感じだ。優しい曲だ。