ユトレヒト 室内楽で 年が暮れ

 題してInternational Chamber Music Festival Utrecht 2019である。

 12月の27日から30日までの4日間オランダのユトレヒトで開かれた。

5年ばかり夏の開催で続けていたのをこの年末年始のシーズンに戻した

のだそうだ。毎年ゲストプログラマーを呼んでいるのだが2019年

ジャニーヌ・ヤンセン(Vl.)がその役を担った。オランダ出身の

名実ともに看板娘だから相当に気合を入れてプログラムに取り組ん

だようだ。御覧の通りである。ちなみに1978年1月7日生まれと

いうから昨日が誕生日。春の七草の人です。

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 そしてこの室内楽のフェスティヴァルは4日間に30のイヴェントを

20会場で開催、一万人以上を集めるという規模である。

https://kamermuziekfestival.nl/en/janine-jansen-programmer-in-2019/

が公式ホームページ。過去のvideoなんかも見られる。

 

 さて、このイヴェントで開かれたであろう多くのコンサートの中から

早くもYouTubeにアップされているものがある。12月27日金曜日に

収録し翌28日に配信という実に素早い対応でスタッフが実に有能。

プログラムは、本大会主役のジャニーヌ・ヤンセンが第一ヴァイオリン

を受け持つ「ドヴォルザークピアノ五重奏曲 イ長調 Op.81」。

言うまでもなくこの作曲家の代表作の一つである。メロディの美しさ

が際立つ名曲だ。

 特に、冒頭、ピアノの密やかな和音に導かれてチェロが第一主題を

歌い出すところは引き込まれる。早くも聴きどころが表れる。譜面は

とってもシンプルなのだが味わい深い。

 

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  あとはⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ楽章と古典的な構成で手堅く進んでいくので

あるが、Ⅱ楽章とⅢ楽章にウクライナ風民謡の形式だとかボヘミア

の民俗舞曲とかが取り入れられているとよく言われる。まあ、それは

そうなのだろうが別にそれが主たる趣ではない。そういった要素も、

あくまでもドヴォルザークの頭とハートを通ったものだ。スメタナ

作曲の師匠だったりして「国民楽派」の形容を付けて呼ばれるこの人

なのでどこかローカルな、いわば二番煎じの作曲家のように軽んじら

れる傾向が無きにしも非ずだがそれは少し気の毒だ。若い時分には、

ワグナーに傾倒したものの次第に遠ざかりブラームスから多くを学ぶ

ことになったしシューベルトベートーヴェンを拠り所としている。

つまりは堂々たる後期ロマン派である。スメタナもそうだが民族的と

されるものは時代を背景とした彩りぐらいに見ておいた方がよいので

はないかと思う。いずれあまり強調するようなことではあるまい。

そんなことを言ったらドイツ・オーストリア・イタリア・フランス

みなそんな要素を持っているのだから。音楽のスタイルというものは

もっと大きな視野で捉えることもできるだろうから。心ひろやかに、

ドヴォルザークのどこかシューベルトに近いものを感じさせる旋律の

美しさ豊饒さ、そして明快な構成を味わいたい。

 聴いて感じるのは、ピアノ五重奏という編成のバランスの良さだ。

ピアノ三重奏にも名曲、傑作が数多くあるが聴いているとどこか窮屈

な感じがすることがある。どうしても特にピアノに音の重なりを託す

といった面があるせいなのか緊張感が強く、息苦しい瞬間もあったり

する。その点、五重奏はピアノが肥大することもなく全体のバランス

がよく取れている編成になっているのかなと思う。それぞれの楽器が

特性を生かして伸び伸びと活躍できるのではないか。ピアノが両手で

ニゾンで動くところなど五重奏ならではの広々感がある、

 

 さて、この演奏、とりわけジャニーヌ・ヤンセンが熱演である。

 集中力のすごさ牽引力の逞しさ変化の幅の広さ・・・すごいもの

がある。会場にいた聴衆はまことに幸せな時間を過ごしたろう。

Ⅰ楽章とⅢ楽章が終わったところで満場の拍手が沸き起こるという

のが何よりもこの演奏の充実ぶりを物語っている。

 

 どうぞドヴォルザークに対する認識を改めさせてくれる白熱の

しかも心に沁みる演奏を聴いてみてください。ワタクシ見終わって

ついブラボーと言ってしまいました。

 https://www.youtube.com/watch?v=eFMV63zy-Xk

  あら、なんだか埋め込みがうまく行かない。しょうがないので

リンクを貼り付けて我慢だ。なんでだろ?